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東京高等裁判所 昭和51年(う)1993号 判決 1977年1月25日

主文

本件控訴を棄却する。

理由

本件控訴の趣意は、弁護人鈴木喜太郎が差し出した控訴趣意書に記載してあるとおりであるから、これを引用し、これに対して当裁判所は、次のように判断する。

控訴趣意第一点(法令適用の誤りの主張)について

所論は、公共団体、特殊団体等が、その主催する競馬、競輪等において馬券、車券の類を発行し、多大の利益を得ている行為は明らかに刑法の賭博に関する罪にあたるにもかかわらず、これらの団体は処罰されないのに、一般市民がこれを模倣し、ごく小規模のいわゆる「のみ行為」を行なっても処罰されるのは、明らかに憲法一四条にいわゆる法の下における平等の原則に反しており、したがって被告人を処罰した原判決は法令の適用に誤りがあり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというのである。

よって検討するに、公営の競馬、競輪等も偶然の勝負に金銭を賭するものであるとはいえ、たとえば競馬法およびその関係法令によれば、その主催者を日本中央競馬会その他地方公共団体に限定し、農林大臣あるいは知事の監督のもとにこれを運営し、なお右中央競馬会においては、その収益の一部を国庫に納付することのあるほか、国及び右公共団体においては、右国庫納付金あるいは収益金を畜産の振興、社会福祉の増進等の施策を行なうのに必要な経費の財源に充てるものとされており、自転車競技法等もこれとほぼ同趣旨の規定を設けているのであって、もとより私人が競馬、競輪等に関し私利を図るために他人に勝馬等投票類似の行為をさせるのとは同列に論じ得ないものであるから、競馬法等がいわゆる「のみ行為」を処罰したからといって憲法一四条の法の下の平等の原則に反するとは考えられない。論旨は理由がない。

同第二点(訴訟手続の法令違反の主張)について

所論は、原判決は起訴状に罰条として記載されていない競馬法三二条をも併せて適用し、被告人に対し懲役刑及び罰金刑を併科しているが、起訴状に罰条として記載された同法三〇条三号は単に懲役刑もしくは罰金刑を科するという択一的規定であるのに対し、同法三二条は右両者を併科できるという非常に重い規定であって、刑訴法二五六条四項但書にいう被告人の防禦に実質的な不利益を生じる虞れのある罰条に当たるから、競馬法三二条を適用した原判決には訴訟手続の法令違反があり、それが判決に影響を及ぼすことは明らかであるというにある。

そこで検討するに、いわゆる「のみ行為」については競馬法三〇条三号においてその構成要件及び法定刑を定められているのであり、この規定が刑訴法二五六条四項のいう罰条に当たるのであって、競馬法三二条は同法三〇条及び三一条の罪を犯した者について情状により懲役刑及び罰金刑を併科できるという科刑上の裁量権を裁判所に与えた規定に過ぎず、これをもって起訴状に記載すべき罰条に当たると解することはできないから、所論は採用できず、論旨は理由がない。

同第三点(量刑不当の主張)について

所論は、原判決の量刑は重きに過ぎて失当であるから、破棄されるべきであるというのである。そこで、原審記録を精査し所論の当否について検討するに、本件は、暴力団住吉連合堀越一家の幹部である被告人が、配下の者を使って申込客を勧誘し、二日間にわたり東京競馬に関し、原判示のとおりのいわゆる「のみ行為」をし、利を図ったものであって、その犯行の態様等に徴し犯情は軽視を許されないものがあり、しかも被告人は少年期において窃盗、恐喝未遂、暴力行為等処罰ニ関スル法律違反により少年院に二回収容され、成人に達した後も暴行、傷害の罪により二回罰金刑に処せられたことがあるほか、昭和四四年二月一七日には本件と累犯の関係にある暴行、道路交通法違反、業務上過失傷害、強姦致傷の各罪により懲役三年の実刑判決の言渡を受けたものであること、その他被告人は本件犯行当時正業に就いていたとは認め難いことなどの諸事情を考慮すると、被告人が本件犯行を深く反省悔悟し、妻と共に飲食店の経営に励み、現在は暴力団関係者と交際を絶とうと努めていること、その他家族関係等所論指摘の情状をできる限り有利に斟酌してみても、原審が被告人を懲役八月及び罰金七〇万円に処したことが量刑重きに過ぎて不当であるとは考えられない。論旨は理由がない。

よって、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 服部一雄 裁判官 藤井一雄 中川隆司)

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